「星空ロック」(那須田淳)

若い世代が考えるべき視点を数多く内包させた作品

「星空ロック」(那須田淳)
 ポプラ文庫ピュアフル

夏休みをドイツで
過ごすことになった14歳のレオ。
彼は90歳の友人・ケチルから、
かつて思いを寄せた女性に
思い出のSPレコードを
届ける役目を託される。
一人旅にとまどう中、
同じ歳の少年・ユリアンと出会い、
彼の冒険が始まる…。

14歳の少年が一人でドイツへ向かう。
しかもフランクフルト空港で乗り換え。
何かとんでもないハプニングが起きて、
思いがけない冒険へと誘われる…、
というような展開ではありません。
近年の少年少女向け作品同様、
日常を大きく逸脱せず、
きわめて安全運転で
ストーリーは進んでいきます。

物語の主軸は、
ケチルの70年越しの恋愛物語を
紐解いていく部分です。
70年消息を知ることが
出来なかった背景として、
第二次世界大戦、ドイツ分断、
ナチス収容所、シベリア抑留と、
戦争の暗い影が存在しています。
それらの障害に加え、
70年という時間に阻まれた
恋愛の行方が、
終末で明らかになるとともに、
爽やかな感動に包まれます。

二つめの軸は、
レオの音楽をもとにした成長物語です。
夏の一人旅は少年の成長を促します。
ユリアンとの語らい、
そしてその妹・リサに対する思い、
それらがわずか4日間の交流の中で
レオに少なからぬ影響を与えています。

そして三つめの軸は、
異国ドイツでのレオの冒険物語です
(といっても日本語が堪能な
ユリアンとリサが一緒ですから、
緊張感は感じられませんが)。
さりげなく
戦争に対する日独の姿勢の違いや
人種問題・移民問題、
結婚観の違いなどを盛り込み、
異文化と大きく接触するなかで、
レオの成長が読み取れます。

ただし、
それら3つの軸の間の関連がうすく、
物語の深まりが今一つであること、
ケチルの恋人探しが
途中までほとんど進展せず、
終末で一気に解決されるために
盛り上がりに欠けること、
音楽が前面に感じられないことなど、
惜しまれる点はいくつか見られます。
しかし、
そんなことが気にならないくらい、
読み手を引きつけ
一気に読了させてしまうような、
圧倒的なエネルギーを
持ち合わせた作品です。

若い世代が考えるべき視点
(それぞれに大きく
踏み込んではいないものの)を
数多く内包させた作品構成には
目を見張るものがあります。
2014年の中学校課題図書として
選定されるだけの
内容をもっています。
中学校2年生あたりに
薦めたい一冊です。

風野潮「ビート・キッズ」と
那須田淳「星空ロック」の、
音楽に関わる児童文学2編を、
今日は並べてみました。

(2019.11.24)

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